■真田家対抗ビーチバレー大会・4



お江の色気攻撃が終わった後、源二郎軍はにわかに反撃に出た。そうしないと離れてしまった得点差を挽回出来ないからだ。
しかしそれ以上に、源二郎は張り切っていた。この戦に臨むにつけ、恐るべき策略を巡らせていたからだ。
この策略さえ成功すれば、もはや勝敗は関係ない。
兄との真剣勝負も捨てがたいけれど、やはりこちらも譲れない。その真剣勝負に夢中なあまり忘れていたが、そろそろしかけてもいい頃合だった。
狙いはただ一つのみ。
源二郎は挑むような鋭い視線を投げかけた。
佐平次がなんとかソツ無く上げられるようになったトスに合わせてジャンプする。
源二郎の目がある一点を睨み据えた。

「食ぅらえぇええええええ!」
(※↑保志ヴォイスでお願いいします。)

砂地に1m以上めり込み兼ねない源二郎渾身の一撃は、しかし兄にレシーブされていた。
小松の目の前で。
源二郎は目を見張る。兄の行動が信じられなかった。
「兄上!? 何ゆえその女を庇われまする…っ」
源二郎の発言こそ信じられない者多数。佐平次はショックのあまり硬直したまま動けない。もよやお江は割とスルー気味だ。これはこれで、ある意味立派である。
源三郎だけが動じず、あくまで穏やかに弟に尋ねた。
「我が妻を庇って何がおかしい」
まさにこれ以上ないほどの正論に、源二郎は返答をためらう。
兄上を取られたくないからとか、思っていても兄嫁の前では口には出せない。言うなら二人きりの時だ。いやもう言わなくてもだいぶバレバレだったが、恥ずかしくて言いたくない。
アイコンタクトの得意な二人ではあるが、この時は源二郎が恥じらい過ぎて出来なかった。その時ふと、源三郎の背後にいる小松がふっと笑う。
上から目線な笑いは、明らかに源二郎に向けられていた。
「!」
源二郎の中でぶっちんと何かが切れた。
ターゲット・ロックオン状態だ。
後に、天下一の兵と言われる頭脳が高速回転し始めた。

ところで、ここにもある策略を期している男が一人。
源三郎方のオールラウンダー・鈴木右近である。
右近も源二郎と似たようなことを考えていた。
大好きな源三郎とのトキメキ☆ハプニングを夢見ていたのだ。同じコートにいるだけでも十分夢見心地だったが、もうちょい何か欲しい。
虎視眈々と機会を狙っていた右近は、源二郎のスパイクから身を挺して小松をかばった源三郎を見て、惚れ直してしまった。スパイクを打つ腕の動きも見えないような剛速球の正面に入るなど、なかなか出来るものではない。
そして考えた。
俺も源三郎様にかばわれたい。
白豪子時代から源三郎に甘え癖のある右近である。
深く考えずに、源二郎の弾丸スパイクの正面に飛び出していた。

顔面に激しい衝撃を食らった右近が吹っ飛ぶ。
5回転くらいしてようやく砂地に倒れ伏した右近に、源三郎の厳しい叱咤が飛んだ。
「右近!何をしている、しっかり拾わぬか!」
レシーブの体勢すら取らず、いきなりボールの軌道に飛び込んでって吹っ飛ばされたのだがら、さすがの源三郎も優しくはなれない。右近はよたよたしながら起き上がった。
「も、申し訳…」
右近の目論見は見事に外れた。小松のようには扱われなかったのだ。
なんと言っても五体満足な男子であり家臣である。つまり、源二郎にとっての佐平次と同じだった。合戦にも等しい試合のさなかにかばう対象ではない。…よく考えれば当たり前なのだが。
その時、背後から優しく柔らかい声が響いた。
「大丈夫ですか?右近殿」
源三郎の妻らしく、小松が右近を気遣ったのだ。その目が、上から目線に見えるのは単に右近が立ち上がれていないからだけではあるまい。事実、主君の正妻ということで目上の方ではあるのだが、右近には正妻なにするものぞの気合いがある。なるべく小松の顔を見ないまま、立ち上がった。
そして、小松が出てきたことで警戒した者は他にも居た。
出た、元凶。
何人かが、一斉にそう思う。
一応名前は伏せておくが、警戒が源二郎軍からだけではないのが肝要だ。
そんな源三郎軍の様子を、源二郎がじっと見ていた。



    戻ル