■陰行夜話・4


幸村は好奇心旺盛な性質らしかった。
山中で追い掛け回された時も、薬草の種類や効能について事細かに聞かれた。煎じ始めれば、隣で飽きるまでずっと眺めている。初めて見る物や聞く事に興味が尽きないらしい。
また幸村は、今まで見た誰とも違う武将だった。
いざ合戦となると誰よりも勇ましく戦うくせに、平時はぼんやりのんびりとしている。ぼんやりというのも、真っ平らな道でつまずくようなハンパないぼんやりさ加減だったし、合戦もハンパなく強かった。攻め手となっては突出し過ぎる程激しく攻め入るくせに、冷静な判断も失わない。敵の動きや部下の疲労の度合いなどもよく見えているのだ。
並の武将の働きではない。
戦の真っ只中でも、佐助は感心して何度も幸村を眺めたものだ。
だから実際接してみて、周囲の評価が偏っていることに驚いた。
幸村は攻撃のみに優れた猪武者と思われがちだった。確かに一番駆けすることが多く、その多くで手柄を上げている。だが、退却も引き際も弁えた思慮深い質であることは、共に行動していてすぐに判った。
さらに幸村は、理想的な上司だった。
仕事が、恐ろしくやりやすいのだ。
指示は的確で無駄がなく、行動にも乱れがない。情にもろく忍にも気を回しすぎるのが気になったが、こそばゆいだけで悪い気はしなかった。
働きやすいということは、上の者が人を使うのが上手いということだ。特に佐助は己の技量に自信を持っていて、今まで満足に指示も出せない武将ばかり見てきたから、幸村の器には目を見張るものがあった。
何しろ若いのだ。
もっと無茶でも阿呆でも許される。
父親が居れば、初陣したばかりと言って周囲の大人に守ってもらっても卑怯ではない。
だが、その代償が早めの死であることは、戦場に立つ誰もが判っていた。佐助にとっては代価をもらう金ずくの仕事とはいえ、命がけで仕えてるんだから上司も優秀でなくては困る。

「また共に合戦に出られる機会があればいいのだが」

幸村はいつもそう言って、佐助との別れを名残惜しんでくれた。自分の技量を認めてくれたゆえの台詞だろう。
フリでも嘘でも悪い気はしなかった。



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