■ねどこ・7


小十郎が目を覚ました時、部屋が急に狭くなったように感じた。
元々八畳一間しかなかったが、己が寝ている夜具以外の物が置いてないので、さして狭くも感じなかったのだ。
が、今は己の寝床と政宗が座っているスペース以外に畳が見えない。小十郎は驚いた。
「政宗様、この様はいかに?」
「おう、小十郎起きたか。調子はどうだ?」
「昨日よりだいぶんによくなりました。お気遣いかたじけのうございます。…が」
聞かれたことにきっちり頭を下げてから、小十郎は再び疑問を口にする。途端に政宗が不機嫌になった。
「奥州に出した手紙の返事と一緒に送られてきた物だ。正確には左月のジジイが追って持って来させたんだが」
「ははぁ…」
その一言で納得のいった小十郎は苦笑を浮かべた。寝床の周辺に置かれた物をいちいち確認するまでもなく、全てが政宗愛用の品であると判る。一例を挙げてみれば
煙管


懐紙
徒然草の写本
肘置き
扇子
香炉。
更に衣類として
足袋
襦袢
下帯
羽織
袴等々。
しかも身分がバレないよう、さりげなく家紋が入っていない物を選ぶあたりが心憎い。と小十郎は思うのだが、政宗はしかめ面だった。子供扱いされたと思っているのだろう。
「あいつ、勘違いしてやがる」
吐き捨てるように言う様に、小十郎は顔をほころばせた。
「こちらに滞在中、少しでも政宗様の居心地が良いようにとのお計らいでしょう」
否応ない理由で敵国に足止めされ、自身は直接向かうことが出来ないとなれば、小十郎でもこうする気がする。
「お前、俺にここで遊んでろって言うのか?」
懐紙の束を無造作に繰りながら、政宗が小十郎を睨む。手紙魔であり和歌にも連歌にも堪能な政宗は、紙と筆を与えておけば一日中部屋にこもっている。上手くのめり込めれば、という注釈が入るが。
「無聊をお慰めしたいという心遣いですよ」
「俺の無聊はお前が治れば直る」
さっさと断言した政宗だったが、小十郎の返答にはわずかな間が空いた。まじまじと顔を見られて、ちょっと逃げ腰になる。
「な、なんだよ?」
「ありがたいお言葉、痛み入ります」
丁寧に頭を下げた小十郎に押されるように、政宗がちょっとのけぞった。
「…なんでそこで感激すんのか判んねぇ」
ジェネレーションギャップというよりは、身分の違いらしい齟齬だった。



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