■ねどこ・6


忍の存在は国家機密である。
規模も活動形態も、外部に知られればその国の命取りになる。辛うじて、その忍達がどの流れを汲む流派であるかということだけ、忍の間で知られている。蛇の道は蛇というやつだ。
が、それ以上に首を突っ込むのは死と道義だった。
無駄話だとしても、他国の忍の話を聞いたらば、殺されても文句は言えない。
特に黒脛は、全員が黒の脛当を付けていることからその名がついた通り、外見に特徴がある。つまり中身がまるで知られていなかった。元が他国の忍だろうと、伊達家に忠誠を誓い黒い脛当を付ければ、黒脛になってしまうのだ。
伊賀、甲賀といった流派が判っていない。その分、集団を結束させるために規律が恐ろしく厳しいのは容易に想像出来た。
そもそもが、一族ではなく伊達家のためという集まりなのが恐い。

…おっかないねぇ。

佐助はそれ以上を聞かず、背負って来た風呂敷包みを上がりかまちに下ろした。
「俺はゆうべのうちに戻って来たんだけどね。深夜にお邪魔しちゃ悪いと思って朝まで待ってたら、ついさっきあちら様から内々に届け物があって」
はい、と渡されてつい受け取ってしまったのは行李だった。なかなか重い。
政宗はなんだか嫌な予感がして、その場で行李をちょっと開けてのぞいてみる。そしてため息をついた。
「おい忍。これ持って来たのは誰だ?」
持ってる間は重そうにしてなかったのに、今さら肩を回しているのが嘘臭い。佐助がよそ見をしながら答えた。
「左月って人の部下っておじさんとその部下のおっさんー」
政宗の眉がぴくりと震える。ドスの効いた声で尋ね返していた。
「誰だって?」
「鬼庭左月斎様の馬回り役で田原殿と名乗る壮年の武者とその従僕でゴザイマシタ」
言わせといて、政宗の耳は途中から佐助の声を聞いていない。
「…あの野郎」
低くうめいたきり、政宗は絶句してしまった。



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