■ねどこ・5


「で?何しに来た」

この、自己完結してさっさと話を移動させてしまうマイペースさも、いかにも領主らしい。幸村にもよく見られる現象だ。佐助は諦めて話を合わせた。
「そうそう。奥州に出した早馬の返事が来たから。はいこれ」
「…。すまねぇな」
早過ぎる、という驚きを込めて書状を受け取ると、佐助がにんまりと笑った。
「馬より早い猿がいるからねー」
その一言で、合点がいく。
政宗は、今度こそ本気で驚いていた。
「なんだぁ?お前上忍だろ。パシリみたいなことしてんのかよ?」
これには佐助が驚いて目を白黒させた。
「確かに上忍でゴザイマスが?恐れ多くも奥州筆頭・伊達公の書状をお預かりしたんだから?そこらの下忍には任せられないでしょー?」
「あー…そりゃすまねぇな」
政宗の場合、忍に重要書類を任せるようなことは出来ない。だが幸村は、大事に当たって忍を使った。忍に対する意識の違いだろう。事実、早馬より早く正確に仕事が完遂出来たあたりが、あの武田や真田に重宝される由縁と思われた。
馬より速度で劣る人間が、馬より早く移動するためには道を走っていられない。木から木へ、山から山へ、まさにマシラのごとく疾駆してきたのだろう。
政宗はちょっと、佐助を見る目を改めた。
当の佐助は、政宗の視線など気にしていないふうに懐に手を差し入れている。
「あとはい、これ」
「…あぁ」
受け取ったのは、伊達家の家紋が入った印籠だった。黒漆に金箔で家紋の彫られた小型の印籠は、ひとめで高価な物と知れる。薬を携帯するために持っていたのだが、確かに政宗からの書状であるという証明のため、共に持たせたものだった。
「これ借りて助かったよー。伊達の領内入ってからさんざん忍に狙われてさー」
「当たり前だろ」
真田の忍・草の者と同様に、伊達領内には黒脛という忍を放っている。もっとも、草が敵国まで潜入して情報収集するのに対して、黒脛は領内に入ってきた間者の殲滅が第一の任務だった。
そのため、使者は一目でそれと判るよう身を晒せと諸国には触れを出している。伊達領内に入って身分を明かせない者は、殺されても文句は言えないという法を徹底させているのだ。

疑わしきは殺す。

それは黒脛の存在意義であると共に、政宗の意思だった。



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