■ねどこ・15


翌々日、またしても佐助は手土産を持って伊達主従を見舞った。
今度はちゃんと、正面から挨拶して入る。
すると、待ち構えていたような政宗に手招きをされた。
「よく来た猿飛。お前に聞きたいことがある」
「何でしょ?」
一応かしこまって正座なんぞしてみる。相手とその家臣が礼儀にうるさいのは前回学習済みだ。しかし政宗は面倒くさそうに礼を省略させると、もう一度手招きをした。
「いいからこっち来い」
「はいはい」
武士を真似て擦り膝で近寄ってもいいのだが、カッコも身分も武士ではないので普通に立て膝で移動する。火急の用とか密書じゃないので、急がないでひたすらキビキビ動くのがポイントだ。そして、互いが手を伸ばせば辛うじて届きそうな位置まで来ると、また座り込んで平伏した。
もう一回くらい許可もらえないともうちょい近付けない。ホント武士ってめんどくさいけど、相手が相手だから仕方ないのだ。またヘソ曲げられたら面倒だし。
だが、当の政宗が佐助の内心の溜め息に気付かないように、じれて手を差し出した。
「いいからさっさとそれ寄越せ」

「形式が要らないなら最初にそう言ってよ」
佐助はぼやきながら持って来た包みを投げた。いきなりの気安いにも程がある態度に、小十郎が目を白黒させる。政宗は奪うように包みをキャッチすると、早速紐を解き始めた。
「TPOって言葉があんだろ」
笹の葉を開きながら、顔も上げずに政宗が受け流す。なんでそんなに手土産に興味津々なのか判らない佐助は、ひたすら不審の眼差しだ。そんなに暇なのか、そんなに甘味が好きなのか。ちなみに佐助の主だったら後者だ。
「こないだと時間も場所も状況もだいたい同じだと思うけど」
朝イチだし、この小屋だし、主に言付かって小十郎の見舞だ。何一つ変わらない。が、政宗は傲然と言い切った。
「俺の心境の変化があるだろ」
「それTPOに入ってないよ」
いや、変化があるとしたらそこが一番急激に変貌する可能性がある。というか、そこしか要因がなさそうだ。
佐助のぼやきなど聞いてなさげに、包みを開いた政宗が歓声を上げた。
「お、今度はかしわ餅か!」
その頃には、諦め顔の小十郎が立ち上がっていた。
かしわ餅に集中してしまった主のために、土間で茶の準備でもしようというのだろう。小十郎の動きを察知した佐助は、目顔でそれを押止めた。見舞に来たのに、当人にもてなされてはたまらない。
代わりに土間に向かった佐助は、横目で政宗を盗み見た。佐助も小十郎も完全眼中外で、かしわ餅を掲げてためつすがめつしている。初めて見た訳でも餓えて幻を見ている訳でもないだろうに、かしわ餅に見入る領主というのは完璧に不審だ。
それでも、茶が出されるまでは待つくらいの自制心はあるらしい。催促はされなかったが、佐助はさっさと準備にとりかかった。
悲しいかな、幸村の世話をしているうちにお茶出しにはすっかり慣れてしまっていた。



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