■ねどこ・1


現状を告げる手紙を託して3日。
ようやく小十郎が上体を起こせるようになった。
幸村の好意で身を寄せている、この医者の家に移って3日が過ぎたことになる。
政宗は新たな変化に安堵のため息をついた。
昏々と眠り続ける小十郎の顔を見るのも飽きたし、襲撃の警戒を続けるのも疲れた。もちろん、敵の正体が解らないのだから気を抜く訳にはいかない。
それに、小十郎が怪我をした元々の原因が自分にあることも解っている。身を呈して己を庇った家臣を看病するのが嫌な訳ではない。というか、そこは正直かなり楽しかった。いつもは口うるさい大男が、起きられずに大人しく政宗の言い成りになっている様を見ては、内心ささやかに溜飲が下げている政宗である。
が、この小屋から出られないのはいささか飽きていたところだった。
話し相手やら煙管やら書物やらがないのも暇を増長させている。
政宗は先代輝宗の嫡子として生まれてこの方、常に誰かにかしずかれて過ごしてきた。世話を受けるのが当たり前の生活をしてきたのだ。自分一人で衣服など着たこともない。
なのに、この変化は急激過ぎた。
何しろ世話人が全く居ないのである。
本来、政宗の世話をするべき片倉小十郎は、手傷を負って床についている。それを政宗が看病しているのである。
前述した通り、小十郎が目を覚ましている限りはなかなか楽しいのだが、寝てしまうと途端に手持ち無沙汰になった。ほとんど毎日見ている顔を、しかも動きの少ない寝姿をひたすら凝視して楽しいはずもない。
暇が性に合わないのだ。
さらに誰も来ない。閨以外は常に誰かの視線を受けて、それが当たり前として過ごしてきたものだから、これもかなりのカルチャーショックだった。誰の視線も誰の思惑も受けず、放置されているという状態が既に異文化なのである。それもそれで、なかなか刺激的ではあるのだが。
政宗は殺風景な部屋を見回して、一つしかない小さな窓を見上げた。
俺を小屋に住わせたのは良しとしても。
小城である上田城の貴賓室でもお粗末と詰って良い身分であるが、急場しのぎとして小屋は許そう。いや、助かっている。
が。

この暇だけはなぁ…。

八畳一間の壁に寄りかかって今度は小十郎の寝姿を見ながら、政宗は今日何度目になるか判らないため息をついた。



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